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薬剤師の退職金相場を職種別に紹介。退職金の算出方法と退職金を決める要素とは?

薬剤師の退職金は、勤務先の職種や勤続年数によって大きく変動し、その実態は一様ではありません。この記事を読めば、病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業、公務員といった主要な職種別の退職金相場から、具体的な算出方法、退職金を左右する重要な要素、さらには税金や将来の退職金を増やすためのキャリアプランまで網羅的に理解できます。ご自身の将来設計に不可欠な退職金について、正しい知識を身につけましょう。

薬剤師の退職金に関する基礎知識

薬剤師としてキャリアを積んでいく中で、将来受け取れる可能性のある「退職金」について関心を持つ方も多いのではないでしょうか。この章では、薬剤師の退職金に関する基本的な知識として、退職金制度の有無や、主な退職金制度の種類とそれぞれの特徴について詳しく解説します。退職金は勤務先や雇用形態によって大きく異なるため、まずは基礎をしっかりと押さえておきましょう。

そもそも薬剤師に退職金はあるのか

「薬剤師には退職金があるのだろうか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。結論から申し上げますと、薬剤師という特定の職種に対して、法律で退職金の支払いが義務付けられているわけではありません。退職金制度の有無やその内容は、勤務先の企業や医療法人、社会福祉法人などの規定によって個別に定められています。

一般的に、規模の大きな病院や企業、公務員として働く薬剤師の場合は、退職金制度が整備されていることが多い傾向にあります。一方で、中小規模の調剤薬局やドラッグストアなどでは、退職金制度がない場合や、あっても一時金のみといったケースも見られます。ご自身の勤務先に退職金制度があるかどうかは、就業規則や労働契約書、あるいは退職金規程を確認することが最も確実な方法です。入職時や、退職を意識し始めたタイミングで、人事担当者に確認してみるのも良いでしょう。退職金は薬剤師にとって重要な福利厚生の一つであり、長期的なキャリアプランを考える上で無視できない要素です。

退職金制度の種類と特徴

薬剤師が受け取る可能性のある退職金制度には、いくつかの種類があります。それぞれの制度で、受け取り方や特徴が異なります。ここでは、代表的な退職金制度について、その概要と特徴を説明します。勤務先がどの制度を導入しているかによって、将来受け取れる退職金の形態や金額が変わってくるため、理解を深めておくことが大切です。

以下に、主な退職金制度の種類とその特徴をまとめました。

制度の種類 概要 支払われ方 主な特徴
退職一時金制度 企業が独自に規程を設け、退職時に一括で金銭を支給する制度。 一括 ・企業ごとに算出方法が異なる(勤続年数、役職、貢献度など)。
・まとまった資金を一度に受け取れる。
・最も一般的な退職金制度の一つ。
企業年金制度 企業が掛金を拠出し、退職後に年金形式または一時金で給付する制度。 年金または一時金(選択制の場合あり) ・老後の所得保障を目的とする。
・確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)がある。
・DBは給付額が確定、企業型DCは運用成果で給付額が変動。
中小企業退職金共済制度(中退共) 国が支援する中小企業向けの退職金制度。事業主が掛金を納付し、従業員の退職時に機構から直接退職金が支払われる。 一時金(一定の要件を満たせば分割も可) ・中小企業でも導入しやすい。
・掛金は全額事業主負担で、損金または必要経費として扱える。
・従業員にとってはポータビリティがある(転職先に制度があれば通算できる場合も)。

退職一時金制度とは

退職一時金制度は、企業が従業員の退職時に、あらかじめ定められた規程に基づいて一時金として退職金を支払う制度です。多くの企業で採用されており、薬剤師にとっても馴染み深い制度の一つと言えるでしょう。支給額は、一般的に勤続年数、退職時の役職や等級、給与、企業への貢献度などを基に算出されます。企業が独自に設計・運用するため、その内容は企業によって大きく異なります。メリットとしては、退職時にまとまった資金を一度に受け取れるため、住宅ローンの返済や新しい生活の準備資金などに充てやすい点が挙げられます。ただし、企業の業績によっては、予定されていた額が減額されたり、支払いが困難になったりするリスクもゼロではありません。

企業年金制度とは

企業年金制度は、企業が従業員の老後の所得保障を目的として導入する私的年金制度です。掛金を企業(場合によっては従業員も一部負担)が拠出し、従業員が退職後、一定期間または終身にわたって年金として受け取るか、あるいは一時金として受け取るかを選択できる場合もあります。主なものに「確定給付企業年金(DB:Defined Benefit Plan)」と「企業型確定拠出年金(企業型DC:Defined Contribution Plan)」があります。

確定給付企業年金(DB)は、将来受け取れる年金額があらかじめ約束されている制度です。企業が年金資産の運用責任を負い、運用実績が悪くても約束された給付額を確保する必要があります。薬剤師が勤務する比較的規模の大きな病院や製薬会社などで導入されていることがあります。

一方、企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が毎月掛金を拠出し、従業員自身がその資金を運用して将来の年金額を形成する制度です。運用成果によって将来受け取る額が変動するため、従業員自身が運用リスクを負うことになります。掛金の拠出限度額や運用商品の選択肢は企業ごとに異なります。近年、この制度を導入する企業が増加傾向にあります。

中小企業退職金共済制度(中退共)とは

中小企業退職金共済制度(中退共)は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの退職金制度です。単独で退職金制度を設けることが難しい中小企業でも、従業員の退職金準備を容易にするために国が設けた制度であり、多くの調剤薬局や小規模な医療機関で働く薬剤師にとっても関連の深い制度と言えます。事業主が毎月掛金を納付し、従業員が退職した際には、中退共から直接その従業員に退職金が支払われます。掛金は全額事業主負担で、法人税法上・所得税法上で損金または必要経費として扱われるため、企業側のメリットもあります。従業員にとっては、転職した場合でも一定の条件を満たせば掛金納付月数を通算できるポータビリティがある点も特徴です。ただし、加入期間が短い場合は、掛金総額を下回ることもあります。

薬剤師の退職金相場 職種別に徹底比較

薬剤師の退職金は、勤務する職種によって大きく異なる傾向があります。病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業、そして公務員として働く薬剤師、それぞれの退職金相場や特徴について詳しく見ていきましょう。ご自身のキャリアプランを考える上で、退職金に関する知識は非常に重要です。

病院薬剤師の退職金相場と傾向

病院薬剤師の退職金は、勤務先の病院の経営母体(国公立、公的、民間など)や規模、勤続年数、役職によって大きく変動します。一般的に、国公立病院や大規模な私立病院では、退職金制度が整備されていることが多く、比較的安定した退職金が期待できる傾向にあります。

例えば、国立病院機構や公立病院の場合、それぞれの法人規定や地方公務員に準じた退職手当規定に基づいて算出されるため、予測がしやすいのが特徴です。勤続年数が長くなるほど、また薬剤部長などの役職に就くことで、退職金の額も増える傾向にあります。

民間病院の場合、退職金制度の有無や内容は病院ごとに異なります。中小規模の病院では、退職金制度が設けられていない、あるいは大手と比較して支給水準が低いケースも見られます。就職や転職の際には、退職金規程を事前に確認することが重要です。

病院の種類 退職金制度の傾向 特徴
国立病院機構・公立病院 規定に基づく退職手当制度 勤続年数や役職に応じて比較的安定、予測しやすい
大規模民間病院 独自の退職金制度(一時金、年金など) 比較的充実している場合が多いが、内容は病院による
中小規模民間病院 制度がない、または中退共など外部制度利用 支給水準は様々、事前の確認が不可欠

病院薬剤師の退職金相場は、一概にいくらとは言えませんが、勤続20年で基本給の数ヶ月分から十数ヶ月分、勤続30年以上で役職に就いていた場合はさらに多くの支給が期待できるケースもあります。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、個別の就業規則や退職金規程によって大きく異なります。

調剤薬局薬剤師の退職金相場と傾向

調剤薬局薬剤師の退職金は、勤務する薬局の規模(大手チェーンか中小個人経営か)や経営状況、勤続年数、役職(管理薬剤師、エリアマネージャーなど)によって大きく左右されます。

大手調剤薬局チェーンの場合、独自の退職金制度(退職一時金制度や確定拠出年金制度など)を設けている企業が多く、比較的安定した退職金が期待できます。福利厚生の一環として退職金制度を整備し、薬剤師の長期雇用を目指す企業が増えています。それでも、病院や大手企業と比較すると、支給水準はやや低い傾向が見られることもあります。

一方、中小規模の個人経営薬局では、退職金制度が整備されていないケースも少なくありません。その場合、経営者が中小企業退職金共済制度(中退共)に加入しているかどうかが一つのポイントになります。中退共は、国がサポートする中小企業向けの退職金制度で、薬局が掛金を拠出し、従業員の退職時に共済から退職金が支払われる仕組みです。

調剤薬局における退職金の相場としては、大手チェーンで勤続10年で数十万円から百数十万円、勤続20年以上で数百万円程度が目安となることがありますが、これも企業規模や個人の貢献度、役職によって大きく変動します。管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職者は、一般薬剤師よりも高い退職金を得られる可能性があります。

薬局業界は競争も激しく、企業の業績によって退職金の支給額が影響を受けることも考慮しておく必要があります。

ドラッグストア薬剤師の退職金相場と傾向

ドラッグストアで働く薬剤師の退職金は、運営企業の規模や方針、薬剤師としての業務内容(調剤業務の有無、管理薬剤師業務など)、勤続年数、役職によって異なります。近年、調剤併設型のドラッグストアが増加しており、薬剤師の専門性がより重視されるようになっています。

大手ドラッグストアチェーンでは、退職金制度を導入している企業が多く、その内容は退職一時金制度や企業型確定拠出年金(企業型DC)など様々です。一般的に、企業規模が大きいほど、退職金制度も充実している傾向にあります。店長やエリアマネージャー、本部社員といった役職に昇進することで、退職金額も増加することが期待できます。

退職金の相場としては、調剤薬局と同様に、企業の規模や勤続年数、役職によって幅があります。勤続年数が長く、責任あるポジションを経験した薬剤師ほど、より多くの退職金を得られる可能性があります。OTC医薬品の販売だけでなく、調剤業務や在宅医療への関与など、専門性を活かした業務に従事している薬剤師は、企業からの評価も高まりやすく、それが退職金に反映されることも考えられます。

ドラッグストア業界も再編が進んでおり、企業の経営状況や方針変更が退職金制度に影響を与える可能性もゼロではありません。就職・転職時には、給与だけでなく、退職金規程や福利厚生全体をしっかりと確認することが大切です。

製薬会社など企業薬剤師の退職金相場と傾向

製薬会社や医薬品卸売会社、CRO(医薬品開発業務受託機関)などで働く企業薬剤師(研究開発、品質管理、学術、MR、DI業務など)の退職金は、一般的に他の職種の薬剤師と比較して高い水準にあると言われています。これは、企業規模が大きい場合が多く、福利厚生制度が充実しているためです。

多くの大手製薬会社では、退職一時金制度に加えて、企業年金制度(確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(企業型DC))を導入しており、手厚い退職給付が期待できます。特に研究開発職や専門性の高い職種では、その貢献度に応じて退職金が上乗せされるケースもあります。

退職金の相場は非常に幅広く、勤続年数、最終学歴、役職、企業の業績などによって大きく変動します。例えば、大手製薬会社で定年まで勤め上げた場合、数千万円規模の退職金が支給されることも珍しくありません。MR(医薬情報担当者)の場合、営業成績が退職金に影響する企業もあります。

ただし、製薬業界もグローバルな競争や薬価改定の影響など、常に変化にさらされています。企業の業績や経営戦略の変更が、将来の退職金制度に影響を与える可能性も考慮しておく必要があります。また、外資系企業の場合は、退職金制度の考え方や仕組みが日系企業と異なる場合があるため、入社前に詳細を確認することが不可欠です。

公務員薬剤師の退職金相場と傾向

公務員として働く薬剤師(国家公務員、地方公務員)の退職金は、「国家公務員退職手当法」や各地方自治体の条例に基づいて明確に定められています。そのため、他の職種と比較して退職金の予測がしやすく、安定している点が大きな特徴です。

退職手当の額は、基本的に「退職日の俸給月額 × 支給率 + 調整額」で計算されます。支給率は勤続年数に応じて定められており、自己都合退職か定年退職かによっても異なります。勤続年数が長くなるほど支給率は高くなり、また、役職が上がり俸給月額が高くなれば、それに応じて退職手当も増額します。

例えば、国家公務員の場合、定年退職で勤続20年であれば俸給月額の約25ヶ月分、勤続35年以上であれば約47ヶ月分といった目安があります(具体的な支給率は規定により変動します)。地方公務員の場合も、国家公務員に準じた基準で条例が定められていることが一般的です。

公務員薬剤師の勤務先としては、国の研究機関、保健所、都道府県立病院、市町村立病院などがあります。これらの機関で働く薬剤師は、身分が安定しており、退職金制度も法律や条例によって保障されているため、安心して長期的に働くことができる環境と言えるでしょう。

ただし、公務員の退職手当制度も社会情勢の変化に応じて見直しが行われることがあります。最新の情報を確認しておくことが望ましいです。

職種 退職金制度の主な特徴 相場に影響する主な要素 備考
病院薬剤師 経営母体により多様。国公立は規定に基づく。民間は独自制度または外部制度。 病院規模、経営母体、勤続年数、役職 民間中小は制度がない場合も。
調剤薬局薬剤師 大手は独自制度、中小は中退共利用または制度なしの場合も。 企業規模、勤続年数、役職、経営状況 企業による差が大きい。
ドラッグストア薬剤師 大手は独自制度が多い。企業型DC導入も。 企業規模、勤続年数、役職、業務内容 調剤業務の有無も影響する可能性。
企業薬剤師 一時金に加え企業年金制度も充実している場合が多い。 企業規模、勤続年数、役職、業績、職務内容 他の職種より高水準の傾向。
公務員薬剤師 法律や条例に基づく明確な規定。 勤続年数、退職時の俸給月額、退職理由 安定しており予測しやすい。

このように、薬剤師の退職金は働く場所や条件によって大きく異なります。ご自身のキャリアプランを考える際には、目先の給与だけでなく、退職金制度を含めた長期的な処遇についても考慮に入れることが、将来の安心につながります。

薬剤師の退職金の算出方法

薬剤師の退職金は、勤務先の退職金制度によって算出方法が大きく異なります。多くの場合、就業規則や退職金規程に詳細が定められていますので、ご自身の退職金について正確に知るためには、まずこれらの書類を確認することが最も重要です。ここでは、一般的に用いられる退職金の計算方法と、退職金額に大きな影響を与える勤続年数について解説します。

一般的な退職金の計算式を紹介

退職金の計算方法は企業や法人によって様々ですが、主に以下のような方式が採用されています。これらの方式を単独で、あるいは組み合わせて用いることが一般的です。

1. 基本給連動型

退職時の基本給をベースに退職金を算出する、伝統的で分かりやすい計算方法の一つです。計算式は一般的に以下のようになります。

計算式: 退職時の基本給 × 勤続年数に応じた支給率 × 退職事由係数

2. 定額制

勤続年数に応じて、あらかじめ決められた一定額の退職金を支給する方式です。例えば、「勤続5年で〇〇万円、勤続10年で△△万円、勤続20年以上で□□万円」といった形で、勤続年数の区分ごとに具体的な金額が定められています。この方式は、比較的、中小規模の調剤薬局や病院などで見られることがあります。

3. ポイント制(功績倍率方式)

近年、特に大企業や一部の先進的な中小企業で導入が進んでいる計算方法です。従業員の貢献度をより反映しやすい仕組みとされています。計算式は一般的に以下のようになります。

計算式: 退職金ポイントの累計 × ポイント単価 × 退職事由係数

これらの計算方法はあくまで代表的なものであり、企業によっては独自の計算方法を採用していたり、複数の方式を組み合わせていたりする場合があります。正確な情報は、必ずご自身の勤務先の就業規則や退職金規程で確認するようにしてください。

勤続年数が退職金相場に与える影響

薬剤師の退職金額を決定する上で、勤続年数は最も基本的ながら非常に重要な要素です。一般的に、同じ条件であれば勤続年数が長ければ長いほど、退職金の額も増加する傾向にあります。これは、多くの退職金制度が長年の会社への貢献に報いるという性格を持っているためです。

具体的に勤続年数が退職金にどのように影響するかは、採用されている退職金制度によって異なります。

以下に、基本給連動型における勤続年数と支給月数(基本給に対する倍率)の一般的なモデルケースを例として示します。ただし、これはあくまで目安であり、実際の支給率は勤務先の規模、業種(病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業など)、経営状況、退職金規程によって大きく異なることにご留意ください。

勤続年数 支給月数の目安(自己都合退職) 支給月数の目安(会社都合・定年退職)
3年 1.0ヶ月~2.5ヶ月分 1.5ヶ月~3.5ヶ月分
5年 2.5ヶ月~4.5ヶ月分 3.5ヶ月~6.0ヶ月分
10年 6.0ヶ月~10.0ヶ月分 8.0ヶ月~13.0ヶ月分
15年 10.0ヶ月~16.0ヶ月分 13.0ヶ月~20.0ヶ月分
20年 15.0ヶ月~23.0ヶ月分 20.0ヶ月~30.0ヶ月分
25年 20.0ヶ月~30.0ヶ月分 25.0ヶ月~38.0ヶ月分
30年以上 25.0ヶ月~40.0ヶ月分以上 30.0ヶ月~50.0ヶ月分以上

この表は、退職時の基本給に表中の月数を乗じて退職金額を大まかに算出するイメージです。繰り返しになりますが、これはあくまで一般的な傾向を示す一例に過ぎません。薬剤師としてのキャリアや勤務先によって、実際の支給条件は大きく異なります。

また、多くの企業では、自己都合による退職の場合、会社都合や定年による退職の場合と比較して、支給率が低く設定されたり、一定の勤続年数(例:3年未満など)では退職金が支給されなかったりするケースもあります。そのため、退職を考える際には、ご自身の勤続年数と退職理由が退職金額にどのように影響するのかを、事前に退職金規程で確認しておくことが非常に大切です。

薬剤師の退職金を左右する主な要素

薬剤師の退職金は、勤務先の状況や個人のキャリアによって大きく変動します。同じ薬剤師という資格を持っていても、受け取れる退職金の額には差が生じるのが実情です。ここでは、薬剤師の退職金額を左右する主な要素について、具体的に掘り下げて解説します。これらの要素を理解しておくことは、将来のライフプランを考える上で非常に重要です。

勤務先の規模や経営状況と退職金

薬剤師の退職金額を決定する上で、勤務先の規模や経営状況は最も大きな影響を与える要素の一つです。一般的に、企業規模が大きく、経営が安定しているほど、退職金制度が充実しており、支給額も高くなる傾向にあります。

例えば、全国展開している大手調剤薬局チェーン、大規模な総合病院、研究開発力のある大手製薬会社などは、中小規模の薬局や個人経営のクリニックと比較して、退職金の原資となる内部留保が厚く、福利厚生の一環として手厚い退職金制度を設けていることが多いです。これらの企業では、独自の企業年金制度を導入している場合もあり、退職一時金に加えて年金形式で受け取れることもあります。

一方で、小規模な薬局や経営基盤が盤石でない医療機関の場合、退職金制度自体が存在しない、あるいは存在しても支給額が低い、または業績によって変動する可能性があります。特に、経営者の判断に大きく左右される中小企業退職金共済制度(中退共)に加入しているものの、掛金が低く抑えられているケースも見受けられます。就職や転職を検討する際には、企業の財務状況や退職金制度の有無、将来性などを事前に確認することが賢明です。

役職や最終学歴が退職金に影響するのか

薬剤師の退職金には、在職中の役職や最終学歴も影響を与えることがあります。多くの企業では、退職金算定の基礎となる給与やポイントが、役職や勤続年数に応じて設定されているためです。

管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャー、部門長といった責任ある役職に就いていた場合、一般の薬剤師よりも高い退職金が支給されるのが一般的です。これは、役職手当などにより退職金算定の基礎となる「退職時の基本給」が高くなることや、退職金規程において役職に応じた「功績倍率」や「役職ポイント」が設定されている場合があるためです。

最終学歴(例:6年制薬学部卒、大学院修士課程修了、博士課程修了など)が直接的に退職金の計算式に含まれることは稀ですが、間接的に影響を及ぼす可能性があります。例えば、学歴によって初任給や昇進・昇格のスピード、昇給テーブルが異なる企業の場合、結果として退職時の基本給や勤続中の平均給与に差が生じ、退職金額に影響が出ることが考えられます。しかし、一般的には学歴そのものよりも、勤続年数、企業への貢献度、最終役職の方が退職金額への直接的な影響は大きいと言えるでしょう。

以下の表は、役職や学歴が退職金に影響を与える可能性のある一般的な要素を示したものです。

要素 退職金への影響度 具体的な影響の例
最終役職(薬局長、管理薬剤師、部長など) 高い 退職金算定基礎額の上昇、役職加算ポイント、功績倍率の優遇
勤続年数 非常に高い 多くの退職金制度で主要な算定要素
最終学歴 間接的(低い~中程度) 初任給や昇進スピードの違いが、生涯賃金や退職時基本給に影響する可能性
専門薬剤師・認定薬剤師等の資格 企業による 資格手当が退職金算定基礎に含まれるか、または人事評価で考慮されるかによる

これらの要素がどのように退職金に反映されるかは、勤務先の退職金規程によって異なりますので、個別の確認が不可欠です。

退職金規程の有無と内容の重要性

薬剤師が退職金を受け取れるかどうか、また、いくら受け取れるかを左右する最も根本的な要素は、勤務先に「退職金規程」が存在するかどうか、そしてその内容です。退職金の支払いは法律で義務付けられているものではなく、各企業が任意で定める制度であるため、退職金規程がなければ原則として退職金は支給されません。

退職金規程が存在する場合でも、その内容は企業ごとに千差万別です。就職・転職時には、必ず退職金規程(多くは就業規則の一部として記載されています)を確認し、以下の点を把握しておくことが極めて重要です。

これらの規程内容は、将来受け取れる退職金額を予測する上で不可欠な情報です。入社時に説明を受けるほか、社内イントラネットで閲覧可能になっている場合や、人事・総務部門に問い合わせることで確認できます。

地域差も薬剤師の退職金相場に関係するのか

薬剤師の退職金相場には、勤務する地域によっても一定の差が生じる可能性があります。これは主に、地域ごとの給与水準の違いや、企業の経営体力、人材獲得競争の状況などが影響していると考えられます。

一般的に、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉など)や関西圏(大阪、京都、兵庫など)の大都市部では、地方都市と比較して薬剤師の平均給与が高い傾向にあります。退職金の算定基礎が退職時の基本給に連動する方式(基本給連動型)を採用している企業の場合、この給与水準の差が退職金額にも反映される可能性があります。また、都市部では大手企業や大規模法人が多く、退職金制度が比較的整備されていることも一因です。

ただし、地域差が退職金に与える影響は、前述の「勤務先の規模や経営状況」「退職金規程の有無と内容」といった要素と比較すると、相対的に小さい場合が多いと言えます。例えば、全国展開している大手調剤薬局やドラッグストアでは、地域によって給与に地域手当などで差をつけていても、退職金規程自体は全国共通の基準を設けているケースが少なくありません。

一方で、地域密着型の中小薬局や個人経営の医療機関などでは、その地域の経済状況や薬剤師の需給バランス、経営者の考え方などが退職金制度の有無や水準に色濃く反映されやすく、結果として地域ごとの特色が出ることがあります。例えば、薬剤師不足が深刻な地域では、人材確保のために好条件の退職金制度を設けている場合もあれば、逆に経営体力から退職金制度の導入が難しい場合もあります。

公務員薬剤師(国立病院機構、都道府県立病院、市町村立病院、保健所など)の場合、国家公務員または地方公務員としての身分となり、それぞれの規定に基づいて退職手当が支給されます。国家公務員の退職手当は法律で定められており、地方公務員もこれに準じた条例を定めていることが多いため、民間企業ほど大きな地域差は生じにくい傾向にありますが、自治体の財政状況によって若干の調整が加えられる可能性はあります。

結論として、地域差は退職金を左右する一要素ではありますが、決定的な要因とまでは言えません。個別の勤務先の退職金規程や経営状況をしっかり確認することが何よりも重要です。

薬剤師が退職金で損をしないために知っておくべきこと

薬剤師のキャリアにおいて、退職金は重要な収入源の一つです。しかし、制度や税金について十分に理解していないと、思わぬ損をしてしまう可能性もあります。この章では、薬剤師が退職金で損をしないために、事前に知っておくべき重要なポイントを解説します。

薬剤師の退職金にかかる税金について

退職金は、長年の勤労に対する報償としての性格を持つため、税制上の優遇措置が設けられています。しかし、全く税金がかからないわけではありません。仕組みを理解し、適切に手続きを行うことが大切です。

退職金にかかる税金は、主に所得税と住民税です。これらは「退職所得」として他の所得とは分離して計算されます。

退職所得控除

退職所得の計算にあたっては、まず「退職所得控除」が適用されます。これは勤続年数に応じて控除額が大きくなる仕組みで、税負担を軽減する効果があります。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数
(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

※勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算します。

退職所得の計算方法

課税対象となる退職所得金額は、以下の計算式で算出されます。

(退職金収入額 - 退職所得控除額) × 1/2 = 課税退職所得金額

この計算式の通り、退職所得控除額を差し引いた後、さらに1/2にした金額が課税対象となるため、税負担が大幅に軽減されます。

所得税と復興特別所得税

課税退職所得金額に対して、所得税及び復興特別所得税が課税されます。税率は、課税退職所得金額に応じて段階的に設定されています。具体的な税率や控除額は、国税庁のウェブサイトなどで最新の情報をご確認ください。

(参考:国税庁「退職金と税」のページに掲載されている速算表など)

住民税

住民税は、課税退職所得金額に対して一律10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)の税率で課税されます。

退職所得の受給に関する申告書

退職金を受け取る際に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出することで、源泉徴収だけで課税関係が終了し、原則として確定申告は不要になります。提出しない場合は、退職金の収入金額から一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収され、自身で確定申告を行って精算する必要があります。特別な事情がない限り、提出することをおすすめします。

退職前に必ず確認すべき退職金関連事項

退職を決意したら、あるいは検討し始めたら、退職金に関して事前に確認しておくべき事項がいくつかあります。これらを怠ると、期待していた金額よりも少なかったり、手続きがスムーズに進まなかったりする可能性があります。

就業規則・退職金規程の確認

最も重要なのは、勤務先の就業規則や退職金規程(退職金規定)を確認することです。以下の項目は最低限チェックしましょう。

これらの規程は、入社時に説明があったり、社内イントラネットで公開されていたりすることが一般的です。不明な場合は、人事担当者に問い合わせましょう。

自身の勤続年数の正確な把握

退職金の計算において、勤続年数は非常に重要な要素です。入社日と退職予定日を正確に把握し、休職期間や育児休業期間などが勤続年数にどのように算入されるのか(またはされないのか)を規程で確認しましょう。

退職金の請求手続き

退職金を受け取るためには、所定の手続きが必要な場合があります。必要な書類(退職届、退職金請求書など)、提出期限、提出先などを事前に確認しておきましょう。手続き漏れがないように注意が必要です。

退職金制度の変更履歴

長年勤務している場合、在職中に退職金制度が変更されている可能性があります。その場合、自身にどの時点の規程が適用されるのか、あるいは経過措置があるのかなどを確認することが大切です。古い規程と新しい規程で、支給額に大きな差が出ることがあります。

未払い賃金や有給休暇の取り扱い

退職金とは直接関係ありませんが、退職時には未払いの残業代がないか、残っている有給休暇をどのように消化または買い取ってもらえるのかも確認しておきましょう。これらも退職時の重要な権利です。

将来の退職金を増やすためのキャリアプランとは

薬剤師として長期的なキャリアを考えた場合、将来受け取る退職金を少しでも有利にするための戦略も重要になります。一朝一夕に増やせるものではありませんが、意識してキャリアを築くことで差が生まれる可能性があります。

退職金制度が充実している職場を選ぶ

言うまでもなく、退職金制度が手厚い企業や法人を選ぶことが最も直接的な方法です。求人情報を見る際には、給与や福利厚生だけでなく、退職金制度の有無や内容(退職一時金制度、企業年金制度、中小企業退職金共済制度(中退共)への加入など)をしっかり確認しましょう。一般的に、規模の大きな病院や企業、歴史のある法人の方が退職金制度が充実している傾向にあります。

勤続年数を長くする

多くの退職金制度では、勤続年数が長くなるほど支給額や支給率が有利になります。一つの職場で長く貢献することは、退職金を増やす上で基本的な要素です。頻繁な転職は、その都度勤続年数がリセットされるため、退職金に関しては不利になることが多いです。ただし、キャリアアップのための戦略的な転職が結果として生涯年収を高めることもありますので、総合的な判断が必要です。

役職や等級を上げる努力をする

退職金の算定基礎が、退職時の基本給や役職と連動している場合、昇進・昇格を目指すことも退職金を増やすことにつながります。日々の業務で成果を出し、スキルアップや必要な資格取得に励むことは、結果として退職金額にも影響を与える可能性があります。

転職時の退職金制度の確認と交渉

やむを得ず転職する場合やキャリアアップを目指して転職する際には、次の勤務先の退職金制度を事前にしっかりと確認しましょう。場合によっては、前職の退職金がない、あるいは少ないことを考慮して、年俸交渉を行うといった視点も持ち合わせていると良いでしょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)など自助努力での資産形成

勤務先の退職金制度だけに頼るのではなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などを活用し、自身で老後資金を準備することも非常に重要です。これらは税制優遇を受けながら資産形成ができる制度であり、将来の経済的な安定に大きく貢献します。特に、退職金制度がない、あるいは充実していない職場で働く場合には、積極的に活用を検討すべきです。

薬剤師としてのキャリアを豊かにするためにも、退職金に関する知識を深め、計画的な準備を心がけましょう。

まとめ

薬剤師の退職金相場は、勤務する職種、例えば病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業、公務員といった違いで大きく変動します。その主な理由として、勤続年数、勤務先の規模や経営状況、役職、そして退職金規程の有無が金額を左右するからです。退職一時金制度や企業年金制度、中小企業退職金共済制度(中退共)などの制度内容を理解し、税金や事前の確認事項を押さえることで、より有利な条件で退職金を受け取れる可能性があります。本記事の情報を参考に、計画的なキャリア形成と退職準備を進めましょう。

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